「能登空き家古民家リノベーションコンテスト」開催への想い
日本海の荒波に面した能登半島の美しい里山風景。そこには、茅葺き屋根や瓦屋根の古民家が点在し、四季の移ろいとともに表情を変える風景が広がっていた。
これらの古民家は単なる建物ではない。江戸時代から明治、大正、昭和へと時代を重ねながら、そこに住む人々の暮らしの知恵と工夫が積み重ねられた文化遺産である。
厳しい冬の季節風に耐える構造、夏の暑さをしのぐ風通し、そして何世代にもわたって家族を見守ってきた居住空間。
囲炉裏を囲んで語り継がれてきた物語、縁側で眺めた夕日、庭先で育てられた野菜。
そこには、自然と共生する日本の原風景が息づいていた。
地震による被害は建物だけにとどまらなかった。
長年古民家に住み続けてきた高齢者の多くは、建物への愛着と経済的な負担の間で苦しい選択を迫られることとなった。
修復費用は数百万円から数千万円に及び、限られた年金収入では到底賄えない額である。
また、たとえ修復したとしても、高齢化により維持管理を続けていくことの困難さも大きな課題となっている。
震災から約1年半が経過した2025年6月現在、被災地では地域住民と行政、そして全国からの支援者が一体となって復旧・復興に向けた歩みを着実に進めている。
インフラの復旧、仮設住宅からの移転、新しい住宅の建設など、生活再建への取り組みは多岐にわたる。
石川県や各市町では、被災者支援制度の充実や復興計画の策定が進められ、国からも手厚い支援が提供されている。
一方で、甚大な被害を受けた古民家や住宅の解体・撤去作業も並行して進んでいる現実がある。
我々は被災地を回り、修繕や保存活用の可能性を調査し、集落単位での活用などを検討する業者の視察ツアーも実施している。
その結果、50件以上の被災家屋が全国の古民家を紹介する情報サイト「古民家住まいる」にも掲載し、契約がまとまれば活用される道筋が見えてきた。
県は、被災家屋を修繕し活用を検討する事業者への財政支援も検討中で、創造的復興につながる活用を増やす狙いがある。
自ら修繕し住み続ける場合と他者の活用を希望する場合があり、
手続きには半年から1年ほどかかる見込みだが、最終的に公費解体となる場合もある中で、後悔しないよう県・創造的復興推進室への相談が重要になっている。
しかし、すべての古民家を行政の力だけで救うことは現実的に困難であり、民間の力、市民の知恵、そして新しい発想による解決策がより一層求められている。
この危機的状況への対応として、そして未来への希望を込めて、私たちは「能登空き家古民家リノベーションコンテスト」の開催を決定した。
このコンテストは、単なる建物の修復や保存にとどまらない。
現代のライフスタイルと価値観に合わせた創造的な活用方法を提案し、持続可能な地域再生のビジョンを具体的に描くことが最大の狙いである。
従来の「保存か解体か」という二者択一的な発想を超えて、「活用による再生」という第三の道を提示したいと考えている。
※じゃぱとら7月号へ執筆した原稿より抜粋
ぜひ、一人でも多くの建築のプロたちに提案をしてもらいたい・・・
はじまっています「能登空き家古民家リノベーションコンテスト」